1日目

星が綺麗に見える。いつも頼りない調子でまばらしにしか見えない星が、ここではしっかりと夜空を占拠していてる。あまりに綺麗だと人に伝えたくなる。

 

長いこと電車に乗ってここまで来た。電車の話はいつもしている。普段と違うのは車両には自分以外の誰も乗っていないことだ。宇宙船に乗っているような(乗ったことないが)そんな気分になる。

 

開け放している窓からたびたび、くりかえし、波の音が聞こえてくる。規則正しく振動する電車の車窓に自分の顔が写っていたのを思いだす。顔も私にとっては近くにあるものだ。でも顔は近くにあるだけではない。そんな事を考えながらここまで来たのだった。

 

春になってつぼみが膨らむみたいに。ホットスポットで火山が生まれるみたいに。顎と頬の周りがひりひりとするのを感じる。私の近くにいる分厚い何かが、大きく膨れてピンク色になっているのがわかる。なんの気も無しに、それを引き剥がそうとしている自分が見える。

 

チョコレートを食べている自分が、窓のその奥に見える。ひとつまみ、ふたつまみ。手元も私にとって近くにある。チョコレートが口の中に放り込まれていく。甘い味が溶けて口の中に広がるのがわかる。でも、そんなことはお構い無しに、またひとつまみ、ふたつまみする。

 

当たり前のことだけれど私は遠くにもいる。この場所も遠いが、それは遠くに来たからだ。

 

こんなことを1日目と名づけていいだろうか。1日というにはまとまりのない経験が沢山ある。

 

今日は本を読んで一つ賢くなれた。名前をつけられないものは、それ故に一塊のものとして捉えてしまいがちだけれど、名前をつけられないものはバラバラなものとしてある。

 

ざぁざぁと擦れたような音が聞こえる。