人生最良の瞬間

父親の顎に頬ずりをしてた時が人生最良の瞬間だったかもしれない。少し伸びた髭の感触が心地よかった。でも今となってはそんな喜びは想像もできない。あの父の言うことは根拠なしだとわかってしまう。嫌悪感に加えて、自分は父よりもわかっているのだと思えるようになった。

この二つの喜び/思い出は反対のものでは全くない。今はもう存在しない出来事/感情だからこそ、最良の瞬間として存在することができる。そしてまた単純な喜び/驕りの構造を、今も微かに残る髭の感触が複雑に壊してくれる。